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むかしむかしの放浪記⑫

今日はGWに突入!本来ならばウキウキする所ですが、今年はステイホーム週間です。

天気もいいんですが、こんな日は旅の続きを書こうかと思います。

さて僕らは昨日の疲れを残したまま次の街、成都に向けてホテルを出発し駅に向かった。

前回お話ししたように僕らはスリにあい財布と一緒に1等寝台の切符もすられてしまった。

前日、駅員に切符をもう一度買わされた。もしすられた切符で他の人が乗って来た時はその時また

話し合うと言われていた。「ブッキングしたら俺たちは降ろされるのか?」という一抹の不安を抱きながら

駅に到着。相変わらず駅は人、人、人でごった返していた。

でも、ここで僕らは今までにない時間を過ごすこととなった。

1等の乗客は入口から他の乗客とは違い、ホント豪華!よくニュースで日本の政治家が訪問する時に映るような部屋へ通され椅子もテーブルも重厚なものが用意されていた。全く僕ら3人には場違いの場所で係りの人も「お前らのような若造が来る所ではない」と言いたげに、こちらを見ていた。

でも、僕らは1等の切符を2倍のしかも外国人価格で買っているんだ!と心の中で叫び、この空間を満喫した。

暫くして列車が入線、改札が始まった。改札も1等は特別で待合室からホームへ入りその目の前が1等車だった。

入口には制服姿の綺麗な女性の車掌さんが立ちそれぞれの席まで案内してくれた。

僕らが案内された1等寝台は4人の個室になっていた。上下2段、4つのベットがあり、今まで僕らの乗っていた2等とは全然違いフカフカで幅も広く寝心地はバツグン!これからの成都までの時間が楽しみだった・・・ここまでは・・・

4人の定員の所に僕ら3人、心配していたすられた切符も使われないようだった。

そして列車は定刻を少し過ぎてゆっくりと動き出した。その時、個室のドアがパッと開いた。

見るとそこには大柄な軍服を着た恰幅のいい中年の男性が立っていた。

男性は僕らを見るなりウッ!と少し驚いたような顔をして立ち止まり、一息おいて入ってきた。

そして自分の席(ベット)に腰を下ろしゆっくりと僕ら3人を見回した。ホントゆっくりと、1人づつ。

部屋の中は物音一つせず、一瞬静寂に包まれた。僕らは固まった・・・だから1等なんかに乗らなければよかった。後悔してももう遅い、ここから僕らは緊張の1日を向かえることとなる。

男性は手荷物をベットの下に置き、上着を掛けドカッと座った。僕らは金縛りにあったように彼の仕草をじっと見つめていた。

男性はもう一度僕らを見回してから言葉を発した。

彼:「君たちは幾つだ?」

僕ら:「22です」「学生です」と答えた・

彼:「何処から来た?」

僕ら:「日本から来ました。」

そして香港から中国に入り、広州ー北京ー西安と旅して来たことを話した。

男性は僕らが日本人だと分かると一瞬沈黙した。この間は北京でのタクシーの時と同じだ!いや、それ以上の緊張感だった。

そして男性は自分の身分を明かし自己紹介が始まった。

もう名前は憶えていないが、彼は中国共産党人民解放軍の大佐だと言っていた。どおりで軍服には沢山の勲章らしきモノが付けてあり、帽子も凄く立派でカバンは大きな皮の長方形のモノだった。

正にお偉い軍人さんだ。

僕らのような若造がなんでこんな所にいるんだ!と驚き、まして日本人と知り複雑な心境だったのだろう。

自己紹介が終わると彼は僕らに下のベットに座りなさいと言った。

彼と対面する形で僕らは座った。すると彼は徐に話し始めた。

彼:「君らは歴史の勉強をして来ましたか?」

彼:「昔、君らのお父さん、お爺さん世代の日本人は私たちと戦争をしたのを知っているか?」

僕ら:「はい、知っています」「お互いに大きな犠牲を払ったことを習いました」

彼:「お互い?」とちょっと顔を曇らせ、「南京の街で起きたことは知っているか?」

嫌な流れになって来たぞ~南京大虐殺のことを言っているようだ。

僕ら:「詳しいことは分かりません」ここは知ってるなんて言ったら大変だと思った。

彼:「君たち日本人は我々の同胞を大勢殺した、多くの街で。」「私たちの国を侵略した。」「そして勝手に国まで作った。」

彼:「君たちはそういう歴史を勉強したか?」

僕ら:「はい、勉強しました。」あまり多くを語らず「申し訳ありませんでした」と謝った。

彼は過去の不幸な歴史を日本人は反省し、君らのような若い人は未来に向けて新しい両国の付き合いをしていってほしいと言った。

そして我が国に来てくれて嬉しいと、旅を通していろいろなことを学んで帰って欲しいと言っていた。

日本人の中で人民解放軍の大佐とさしで膝を突き合わせて説教を受けたヤツもそうそういないだろう。

ある意味、貴重な経験をさせてもらった。そして中国と日本は今でも近くて遠い国なんだということを実感させられた。

四川成都までの列車は丸一日かかるが、他のことはほとんど憶えていない。余りにもこの人との出会いが大きくて。ただ一つ記憶に残るのは、この大佐のイビキがうるさくてほとんど眠れなかったこと。

本当に1等寝台なんか乗るんじゃなかった(笑)

今回はこの辺で。次回は成都へ。

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